「精神疾患による休職と解雇」分科会 感想

まず、何よりも印象的であったのは、伊草さんが運動を継続していく中で、その運動の意義を咀嚼し、周りの人を巻き込んでいくように成長していったこと、これを周りの支援者が見守り、サポートを続けていったことである。伊草さんが最初に勇気を持ってユニオンの扉をたたいたこと、森さんらが企業側との交渉に粘り強く取り組み、大変な訴訟活動まで支えていく決意をしたこと、弁護団が広い視野に基づき主張を組み立て、意見陳述の場なども通じて労働専門部の裁判官の矜持に訴えかけたこと、それぞれの活動が全て相乗して勝訴という結果につながった事実がよく理解できる分科会となったと考える。

準備の段階では、三者の立場からのストーリーを、どのように分かりやすく、興味深いと思ってもらえるように伝えるか、分科会の形式や構成面をどうするかなかなか意見がまとまらず、大変な思いをした上、当日の運営面ではあたふたしてしまうことが多かったものの、リアルタイムで質問を受け付けるパネルディスカッション形式にしてよかったと感じた。

また、本分科会の準備の過程では、発達障害や精神疾患とは何なのか、精神科医療が社会にとって「扱いにくい人」を発達障害などとして恣意的にラベリングして排除してしまう作用を有しているのではないか、医師と使用者側が通じることは、会社にとって望ましくない人を排除することを容易にしてしまうのではないか、といった問いも挙がっていた。この問いを深めることはできなかったが、企業側が解雇権濫用法理の潜脱にあの手この手を用いてしまっているという現実に加えて、今後も問題意識を持っていきたい。

伊草さんのケースでは、地裁で勝訴判決を得てもなお、職場復帰のための条件交渉が続いており、門前における宣伝行動も引き続き行われている。復帰の交渉材料とする意図もあり、一部敗訴部分について控訴が係属中である。地位確認が認容されるという画期的な判断を得ても、最終的な解決への道のりは長くて厳しいものであるという労働事件の厳しさも感じた。

それでもなお、生き生きと対話をする講師の方々の姿は魅力的で、労働事件に取り組むことのやりがいは、このような連帯が作られていくプロセスを存分に感じることができることにもあると思う。労働者と共にたたかう弁護団は、世論喚起などの法廷の外で継続される運動から得た推進力を力に、裁判所に適切な判断を促すために、主張立証と訴訟指揮に関する要請の双方において、法律家としてのプロフェッショナリズムを発揮することが求められているのだと感じた。そのような弁護士になれるよう研鑽を積んでいきたい。

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